最終更新:2026年10月5日
相場が動いて、注文した値段では約定しなかった。では、有利な方向に動いていたら、その得をした分は自分のものになるのでしょうか。
不利な方向に滑るのは誰でも経験します。逆方向に滑ったときの話は、ほとんど見かけません。そこで、2026年10月時点で調べた30社の注文執行方針・最良執行ポリシー・顧客契約を開いて、有利な方向の滑りをどう書いているかだけを抜き出しました。
結果は、思っていたよりはっきり分かれました。有利な方向の価格を顧客に渡すと明記していたのは3社です。残りは、触れているだけか、方向を書いていないか、記載が見当たりませんでした。
結論:有利な方向の滑りについて、30社は5つに分かれます
| 書かれ方 | 社数 | ブローカー |
|---|---|---|
| 有利な方向の価格を顧客に渡すと明記 | 3社 | FXDD、DecodeFX、iFOREX |
| 有利な方向にも滑ると書いている(渡すとは書いていない) | 6社 | FXGT、HYCM、MYFX Markets、Vantage、WeTrade、FXCC |
| スリッページには触れるが、方向を書いていない | 12社 | Exness、NordFX、IC Markets、Milton Markets、EBC、VT Markets、ThreeTrader、AXIORY、XS.com、Traders Trust、Land Prime、Tradeview |
| 開いた文書にスリッページの記載が見当たらない | 8社 | XMTrading、TitanFX、BigBoss、HFM、Axi、Tickmill、TradeQuo、IS6FX |
| 規約が公開されておらず判定できない | 1社 | EMCTrading |
記載がないことは、有利な方向に滑らないという意味ではありません。約束が文書に書かれていない、というだけです。
有利な方向の価格を渡すと書いているのは3社
ここがこのページの中心です。3社だけが、市場が顧客に有利な方向へ動いた場合にその価格で約定させる、と文書に書いていました。
FXDDの最良執行ポリシーがいちばん直接的でした。注文サイズによっては不利な価格で約定することがある、と認めたうえで、こう続けます。
However, under all circumstances, FXDD pays due regard to ‘slippage’ and passes on positive slippage to clients in case the market moves in favour of them.
「under all circumstances」という言い方をしているのは、30社でこの社だけでした。同じ文書には、注文価格と市場価格の差がスリッページの許容幅を超えた場合は注文を拒否するとも書かれています。拒否と価格の引き渡しが、同じ段落に並んでいます。
DecodeFXは金融商品開示文書で、取引所の株式や先物と同じ扱いにすると書いています。
we slip our clients to a better price if the interbank market from which we obtain prices has moved in your favour, and similarly a worse price if the market has moved against you
有利なときと不利なときを、同じ一文の中で並べています。これを読んで手が止まりました。片方だけ書いてある文書をいくつも読んだあとだったからです。
iFOREXは日本語で書いていました。指値注文について、「スリッページの方向がお客様に対して有利であるか不利であるかに関わらず、シンメトリカルで透過的な方法(シンメトリカルスリッページ)で、最初の利用可能な価格で実行されます」とあります。日本語で対称性を名指ししているのは、調べた30社でこの社だけでした。
同社はさらに、スリッページはマイナス残高保護には影響しないと書き添えています。滑った結果どうなるかまで、ひとつの段落でつないでいます。
「有利な方向にも滑る」とは書いているが、渡すとは書いていない6社
次の層は、言葉としては出てくるが、約束の形になっていない社です。「positive slippage」を定義しているだけ、という書き方が多くありました。
- HYCM|注文執行ポリシー。約定価格が顧客の希望価格より良い場合、これを positive slippage と呼ぶ、という定義
- MYFX Markets|Best Execution Policy(セーシェル名義・21ページ)。HYCM とほぼ同じ文
- Vantage|最良執行方針(December 2023)。同じ文
- WeTrade|注文執行方針。同じ文
- FXCC|投資サービス一般条件。同じ定義に加え、価格改善(price improvement)の機会を継続的に監視していると書いています
- FXGT|利用規約 第14.13条と定義 29.43。より悪い価格でもより良い価格でも約定しうると書き、「Negative and positive slippage applies to pending orders」と指値注文にも及ぶことを明記しています
この6社の文が似ているのは偶然ではなさそうです。同じひな形が使われていると読める近さでした。ただ、定義があることと、有利な価格を渡すと約束することは別です。
対称性を監視している、と書いた社
IC Marketsの注文執行方針には、短い一文があります。「We also monitor the symmetry of slippage and requotes.」対称性そのものを監視対象に挙げているのは、調べた30社でこの社だけでした。
同方針はスリッページを「取引の正常で予期されるコスト」と位置づけ、第5.2条にもとづいてリクオートを出す場合があるとも書いています。ストップアウトの50%も同じ文書の中にありました。
XS.comの注文実行ポリシーは、執行品質を見直す指標として「リクオート件数の著しい増加」を挙げています。一方で同社の公開ページは、口座タイプごとに「リクオートなし」と書いています。
公開ページが「リクオートなし」と書く5社
法的文書ではなく、公開ページの側で執行品質を書いている社があります。どれも対応する条項が、開いた法的文書の中には見当たりませんでした。
- Tradeview|日本語の公開ページに「ラストルックや非対称スリッページ、価格操作は一切無い」。「非対称スリッページ」という語を日本語で否定しているのは、この社だけでした
- Traders Trust|リアル口座タイプのページで、3種すべてに「リジェクションなし/リクオートなし」。平均執行速度 0.1秒
- Land Prime|公開ページに「0.0035秒の超高速約定、リクオートなしで安定取引」
- ThreeTrader|法的文書ページの説明文に「no dealing desk, price manipulation or requotes」。同じ段落で、平均スプレッド・執行速度・約定率を毎日監視しているとも書いています
- XS.com|エリート口座・セント口座などの口座タイプページに「信頼性の高い迅速な約定(リクオートなし)」
公開ページは会社が一方的に書き換えられる場所です。「なし」と書いてあること自体を否定する材料は持っていませんが、規約に同じことが書かれているかどうかは別に確かめる価値があります。
リクオートの猶予は3秒です
リクオートを出す手順まで書いている社は少数でした。そのうち2社が、顧客に与える時間を「3秒」と書いています。
Exnessの顧客契約(2026年7月24日版)は、リクオートは希望価格がもう使えないことを知らせる通知であり、新しい価格を受けるか断るかに3秒を与える、と定めます。断った場合も、応答しなかった場合も、注文は約定しません。
NordFXの MetaTrader 取引規程も、新しい価格の「Requote」ウィンドウが出て、同意するなら3秒以内に OK を押すとあります。条文の書きぶりは違いますが、数字は同じ3秒でした。
HYCM は秒数を書かず、インスタント注文のあとに二次的な提示が出て、顧客が同意してから約定すると書いています。
スリッページの実績を数字で出している社は1社
ここは条項ではなく、公開しているデータの話です。AXIORYは、約定スピードとスリッページ率を毎月の取引実績として数値で出しています。
条項でどう書いてあるかと、実際にどう執行されたかは別の話です。後者を自社サイトで数字にしている社は、調べた30社でこの1社だけでした。これは同社の公表値で、私が実測したものではありません。
どちらの語も出てこなかった8社と、開いた文書
否定形で書くときは、何を開いたかも残しておきます。次の8社は、スリッページとリクオートのどちらの語も見つかりませんでした。
- XMTrading|利用規約、リスク開示書(全5ページ・2026-10-03に追加で読みました)。法的文書として掲載されているのは利用規約・リスク開示・プライバシーポリシー・クッキーポリシーの4点で、注文執行方針は含まれていません
- TitanFX|利用規約、入出金規約。法的文書一覧に「執行」「Execution」の語はありません
- BigBoss|顧客契約(コモロ名義・2026年9月7日版・全37ページ。2026-10-03に最新版を読み直しました)。サイトマップに載っている法的文書は顧客契約と暗号資産の規約・プライバシーポリシーだけで、注文執行方針はありません
- HFM|顧客契約書、Terms of Business(2026年2月版)、利用規約。この社だけは法的文書一覧のページに到達できていません。日本語・英語ともURLが404を返すため、ほかに文書がある可能性を否定できません
- Axi|顧客契約、プロダクトスケジュール。法的文書一覧(日本語)に「執行」「Execution」の語はありません
- Tickmill|顧客サービス契約、利用条件。2026-10-03に法的文書一覧を確認しました。日本居住者の契約先であるセーシェル(FSA)名義の一覧は、顧客サービス契約兼リスク開示書・苦情書式・苦情処理手続・プライバシーポリシー・クッキーポリシーの5点で、注文執行方針はありません
- TradeQuo|顧客サービス契約、リスク開示、濫用取引の取扱ポリシー。法的文書一覧(全8,177字)に「執行」「Execution」の語はありません
- IS6FX|利用規約3種(コモロ・モーリシャス・南アフリカ)、注文執行方針
このうち IS6FX は、4,240字の注文執行方針を公開していながら、その中にスリッページもリクオートも一度も出てきませんでした。最良執行の原則を述べた文書で、滑りに触れていない。8社の中でここだけ性格が違います。
EMCTradingは顧客同意書のリンクが空のままで、開ける文書がありませんでした。判定していません。
2026-10-03に、この8社について裏を取り直しました。6社は法的文書の一覧そのものを確認し、注文執行方針が別文書として存在しないことまで見ています。XMTrading と BigBoss は未読だった文書(リスク開示書と最新の顧客契約)を追加で読みました。HFM だけは一覧ページに到達できていないので、否定の確度が1段低いことを明記しておきます。
ここから何が言えるか
執行の速さを売り文句にしている社は多いのですが、速さと、滑る方向の扱いは別の項目です。速いと書いてある社の多くは、有利な方向について何も書いていませんでした。
そして9社(3社+6社)が有利な方向に触れている一方で、渡すと約束する形になっているのは3社だけです。この差は、口座を選ぶ基準にするほど大きくはないかもしれません。ただ、知らずに読むのと知って読むのでは、同じ文書が違って見えます。
条件を横に並べたい場合は比較表で絞り込めます。滑った結果として口座で何が起きるかはロスカットされたあとの7段階に置きました。
同じことを自分で確かめるには
- 利用規約ではなく、「注文執行方針」「最良執行ポリシー」「Order Execution Policy」を先に探す。法的文書一覧ページの下のほうにあることが多い
- その文書内を「slippage」で検索する。出てこない社もあります
- 出てきたら、「positive」「better」「in your favour」が同じ文書にあるかを見る
- 公開ページの「リクオートなし」「超高速約定」は、法的文書に同じ記載があるかを別に確かめる
- リクオートの手順があれば、応答する時間(秒数)と、応答しなかった場合の扱いを読む
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このページについて
2026年10月時点で調べた30社の注文執行方針・最良執行ポリシー・顧客契約・利用規約・公開ページから作りました。引用はすべて原文の語で、条項番号か文書名を添えています。
規約は3か月に一度読み直し、変更があればこのページを直して更新履歴に残します。ここで確認したのは文書の記載であって、実際の約定がどうだったかは測っていません。