出金が止まった。利益を取り消された。交渉が決裂したら、最後はどこで争うことになるのか。その答えは、20社すべての規約の終わりのほうに書いてあります。
執筆時点で調べた20社の顧客契約から、準拠法と裁判所の条項を読みました。日本の法律を準拠法にしている社は、ゼロでした。ただし1社だけ、条文の書き方が他と違います。
読み終えて思ったのは、この条項は口座を開く前ではなく、何かが起きたときに効いてくるということです。だから普段は誰も読まない。
結論:どこの法律で、どこの裁判所か
| 準拠法 | 社数 | ブローカー |
|---|---|---|
| セントビンセント・グレナディーン諸島 | 5社 | HFM、Land Prime、WeTrade、BigBoss、Milton Markets |
| セーシェル | 4社 | Exness、FXGT、XS.com、XMTrading |
| 英領バージン諸島 | 1社 | iFOREX |
| ベリーズ | 1社 | AXIORY |
| アンジュアン(コモロ連合) | 1社 | MYFX Markets |
| バヌアツ | 1社 | ThreeTrader |
| セントルシア | 1社 | Vantage Trading |
| イングランドおよびウェールズ | 1社 | Axi |
| ケイマン諸島(商事仲裁裁判所) | 1社 | Tradeview |
| 顧客の居住国の法律 | 1社 | TitanFX |
| 居住国の法律との関係で解釈、と書くのみ | 1社 | IS6FX |
| 規約非公開で判定できない | 1社 | EMCTrading |
| (本文では読めていない) | 1社 | EBC Financial Group(利用規約はセントビンセント・グレナディーン諸島。日本居住者の契約先とは別法人の可能性) |
裁判所も、ほぼ同じ場所が指定されています。「非専属的管轄」と書く社が多く、これは顧客をそこに縛る一方で、会社の側は別の国でも訴訟を起こせるという意味です。
20社の条項
| ブローカー | 条項 | 書いてあること |
|---|---|---|
| TitanFX | 利用規約 第23.25条・第23.26条 | 「本約款は、お客様が新たに登録された管轄地域の現行法に従い、お客様は当該国の裁判所の非専属的管轄に服するものとします」。日本居住者なら日本法・日本の裁判所と読める書き方です。ただし第23.26条で、当社が他の管轄地域で訴訟を始めることは妨げないとしています |
| Axi | 顧客契約 第20.1条・第20.2条 | イングランドおよびウェールズ法。「for our benefit only(当社の利益のためにのみ)」専属管轄に服する、と書かれています。契約先はセントビンセント・グレナディーン諸島の AxiTrader LLC で、法人の国と準拠法が違います |
| Tradeview | 顧客契約 | 裁判ではなく仲裁です。ケイマン諸島大審裁判所の商事仲裁裁判所の専属管轄に服し、他の管轄への移送を求める権利を放棄する、と定めています。さらに仲裁を申し立てられる期間にも制限があります |
| AXIORY | 利用規約 第29.1条 | ベリーズ法。紛争はベリーズの裁判所へ |
| HFM | 顧客契約書 第47.1条・第47.2条 | セントビンセント・グレナディーン諸島法 |
| Land Prime | 顧客同意書 GOVERNING LAW AND JURISDICTION | セントビンセント・グレナディーン諸島法。所在地の法で解釈・執行される |
| WeTrade | 顧客契約 | セントビンセント・グレナディーン諸島の裁判所。ただし当社が顧客から金銭を回収する訴訟は別、という但し書きがあります |
| BigBoss | 利用規約 | セントビンセント・グレナディーン諸島法。顧客は同国の裁判所の非専属的管轄に服する |
| Milton Markets | 利用規約 v6.2 第24.21条 | 「契約は、SVGで有効な法律に準拠し、お客様はその場所の裁判所の非排他的管轄権に服します」 |
| Exness | 顧客契約 第16.1条・第16.2条 | すべての紛争はセーシェルの裁判所で最終的に解決される |
| FXGT | 利用規約 第26.1条 | セーシェル法。「for the Company’s exclusive benefit(当社の専属的利益のために)」と明記 |
| XS.com | クライアントサービス契約 第38.1条 | セーシェル法。管轄裁判所もセーシェル |
| XMTrading | 利用規約 | 「for our exclusive benefit(当社の専属的利益のために)」セーシェルの裁判所が管轄を持つことに、取消不能で同意する |
| iFOREX | 顧客契約 | 英領バージン諸島の裁判所 |
| MYFX Markets | [コモロ名義]Client Agreement 第28.1条・第28.2条 | アンジュアン(コモロ連合)法。日本から見て、法制度や裁判記録の公開状況を確かめるのがもっとも難しい法域のひとつです |
| ThreeTrader | お客様規約 第35条 | バヌアツ法。当社が他の関連する管轄で手続を開始することは妨げない |
| Vantage Trading | 顧客契約 第17条 | セントルシア法。非専属的管轄 |
| IS6FX | 利用規約(Comoros) 第21条 Governing Laws | 「顧客の居住国の法律と一致しない場合は、当該国の管理法に基づいて解釈される」という趣旨の1文のみ。どこの裁判所かは書かれていません |
| EBC Financial Group | ウェブサイト利用規約 第9.1条 | セントビンセント・グレナディーン諸島法。ただしこれはウェブサイト利用規約で、日本居住者の契約先法人とは別の可能性があります |
| EMCTrading | — | 規約文書が公開されていないため判定できない |
原文(日本語)を見る ― 出典:TitanFX 利用規約 第23.25条・第23.26条
23.25 本約款は、お客様が新たに登録された管轄地域の現行法に従い、お客様は当該国の裁判所の非専属的管轄に服するものとします。23.26 なお、本条項は、当社が他の適切な管轄地域で訴訟手続きを開始することを妨げるものではありません。
原文(英語)を見る ― 出典:Axi 顧客契約 第20.1条・第20.2条
20.1 LAW This Agreement, and each Position or transaction between us and you will be governed by and construed in accordance with the laws of England and Wales. 20.2 JURISDICTION Both parties submit irrevocably, for our benefit only, to the exclusive jurisdiction of the laws of England and Wales.
読んでいて手が止まった3か所
1つめは、TitanFXの第23.25条です。準拠法を自国に固定せず、顧客の登録した国の法律に従うと書いています。20社でここだけでした。日本居住者にとっては、条文の上ではいちばん近い場所で争える形になります。ただし第23.26条があるので、会社の側は別の国でも訴えられます。
2つめは、「for our benefit only」「for the Company’s exclusive benefit」という但し書きです。Axi、FXGT、XMTradingの3社で見つけました。管轄の合意は会社の利益のためにあると、条文が自分で書いています。顧客は指定された裁判所に縛られ、会社は縛られない。
3つめは、Tradeviewの仲裁条項です。裁判ではなくケイマン諸島の商事仲裁裁判所で、他の管轄への移送を求める権利を放棄させ、さらに申し立ての期間にも制限を置いています。20社で仲裁を指定していたのはこの1社だけでした。
日本の窓口で、何ができて何ができないか
準拠法が海外でも、日本の相談窓口は使えます。ただしできることの範囲は決まっています。
- 金融庁 金融サービス利用者相談室|0570-016811(IP電話 03-5251-6811)平日10:00-17:00、ウェブは24時間。ただし案内には「あっせん・仲介・調停を行うことは出来ません」と明記されています
- 詐欺的な投資に関する相談ダイヤル|0570-050588(IP電話 03-6206-6066)平日10:00-17:00。損害を被った場合に限らず受け付けています
- 消費者ホットライン 188|国民生活センターの平日バックアップ相談は 03-3446-0999(平日10-16時)
相手が日本の金融庁の無登録業者一覧に載っている会社なら、その事実は確認できます。ただし一覧への掲載は無登録営業についての警告で、資金が戻ることとは別の話です。
ここから何が言えるか
言えないことから書きます。準拠法が海外だから泣き寝入りになる、とは書けません。実際にどうなるかは、金額、相手の所在、その国の制度で変わります。私は裁判をしたことがないので、そこは書けません。
言えるのは3つです。
- 20社すべてで、準拠法は日本法ではありませんでした。TitanFXだけが顧客の居住国の法律と書いています
- 「非専属的管轄」は、顧客だけを縛る形です。会社は別の国でも訴えられる、と多くの規約がわざわざ書いています
- 争う場所は、口座を開いた時点で決まっています。あとから選べません。スプレッドやボーナスより先に、この条項を見ておく価値はあると思います
同じことを自分で確かめるには
- 顧客契約の終盤で GOVERNING LAW/JURISDICTION/準拠法/管轄 を探す。だいたい最後から3〜5番目の条項です
- exclusive(専属的) か non-exclusive(非専属的) かを見る。さらに「for our benefit」「当社の利益のために」が付いていないかを見る
- arbitration(仲裁) の語があれば、裁判ではなく仲裁です。申し立て期限の有無も確かめる
- その法域が、投資家補償基金や当局の登録簿でどう扱われているかとあわせて読む
資金そのものの扱いは顧客資金の扱い、取引の相手が誰かはあなたの取引相手にまとめてあります。
このページについて
2026年9月20日時点で規約アーカイブに保存してある各社の文書から、準拠法と管轄の条項を読みました。各社の記事に書いた調査基準日の版です。
確認できなかったこと。EMCTradingは規約が非公開です。IS6FXは条文が1文だけで、裁判所の指定が読み取れませんでした。EBC Financial Groupで読めたのはウェブサイト利用規約で、日本居住者の契約先法人の顧客契約は掲載が見当たりません。また、これらの条項が日本の裁判所で実際にどう扱われるかは、私には判断できません。「見当たらない」は、私が探して見つけられなかったという意味です。規約は3か月に一度読み直し、変更があれば直して更新履歴に残します。
準拠法が海外であることは、20社に共通しています。そこではなく記載の整合性で絞るなら、20社の比較表と4条件を満たした2社にまとめてあります。合格は「おすすめ」という意味ではありません。その理由も、そのページに書いています。