口座を開くとき、たいていの人はスプレッドとレバレッジを見ます。そのあとに効いてくるのが、この条項です。約定して口座に入った利益を、あとからブローカー側が取り消せる、と書いてある条項のことです。
執筆時点で調べた20社の利用規約・顧客契約を読み、この条項を探しました。17社にありました。1社は「記載が見当たらない」、2社は文書そのものにたどり着けず未確認です。条項番号を添えてあるので、原文で確かめられます。
読んでいて手が止まったのは、2社の書き方でした。取り消せるのは「当社がお客様に支払う側の取引」だと、条文にそう書いてあります。あとで触れます。
20社の利益取消条項
| ブローカー | 型 | 条項と内容(規約から) |
|---|---|---|
| AXIORY | 誤りの訂正 | 規約 Paragraph 14.6・21.2・24.2(i)。市場の失敗やアービトラージ、技術的問題、流動性提供者によるキャンセルなどの場合に、約定済み取引の変更・取消を行う権利を留保 |
| XMTrading | 誤りの訂正 | 利用規約20条「Manifest errors」により、明白なエラーによる取引について会社が対応する権利を留保 |
| FXGT | 禁止手法 | 利用規約 第2.6条・第8.6条・第8.8条により、該当する取引とそこから生じた利益を無効にできる(nullify all related Transactions and any resulting profits) |
| ThreeTrader | 会社の裁量 | 規約 第9.7条(b):第9.7条に該当すると同社が信じた場合、同社が支払う側となる取引を最初から無効として扱うことができる(顧客が30日以内に決定的な証拠を提出した場合を除く)。同(c)資金の留保、(e)口座閉鎖も規定されている。 |
| HFM | 禁止手法 | 顧客契約書24.4条(a)〜(h)。取引の無効化・取消、損益の巻き戻し、口座凍結、罰則金の賦課、そして(h)「口座を閉鎖し、禁止された取引手法から生じた利益を没収し、当初の入金額を返還する」。出金済みの場合は関連口座から差額を没収できるとも記載 |
| EBC Financial Group | 禁止手法 | 注文執行方針 第6.2項により、ボーナス関連の禁止行為に該当した場合、ボーナスの没収・顧客資金の保留・ペナルティの賦課が可能とされている。 |
| Axi | 会社の裁量 | 6.2条(d)「we consider it necessary to cancel or reverse a trade that has already been executed, including where we reasonably believe that trade was placed in connection with any of the conduct described in sub-clauses (e) to (i) below」。あわせてヘルプセンターに「レイテンシー・アービトラージと判断された取引は取り消されます」と記載。 |
| Tradeview | 会社の裁量 | あり。顧客契約 第15条・第16条に該当すると同社が単独の裁量で判断した場合、口座の凍結・閉鎖、取引の無効化、利益の留保および回収ができると規定 |
| TitanFX | 誤りの訂正 | 利用規約 第5.23条・第5.26条。重大な誤謬に基づく取引について契約開始時点から無効とすることができ、第5.26条では「当社がお客様に対して金銭を支払う義務が生じる取引である場合、当社はその取引を契約の開始時点から無効とみなす」と記載 |
| BigBoss | 誤りの訂正 | 利用規約 第5.9条に誤ったクォート時の修正・調整の規定、第11.1〜11.2条にポジション清算権の規定 |
| Exness | 禁止手法 | 顧客契約書11.2(O):アルゴリズムによるレイテンシーの悪用や、自動化されたシステム過負荷によって得たと当社が合理的に判断した利益を、調整・取消・無効にできる |
| XS.com | 未確認 | —(この記事の執筆時点では確認できていません) |
| Vantage Trading | 禁止手法 | 第1.4項 v) により、疑わしい取引行為が疑われる場合、口座の一時・永久停止、損失の回収、注文の無効化と関連する利益の取消しを即時に行えると規定されています。取消しの対象範囲・金額の上限・異議申立ての手続を定めた条項は見当たりません。 |
| IS6FX | 会社の裁量 | 利用規約 第12条は「禁止行為に該当するかどうかの判断は当社が行い、その内容と根拠を利用者に説明することを要しない」と規定しています。第7条は市場濫用にあたる取引を列挙したうえで、当社が是正措置をとれるとしています。取消しの対象範囲・金額の上限・異議申立ての手続を定めた条項は見当たりません。 |
| Milton Markets | 禁止手法 | 第24.33条(b)に、アービトラージ戦略の疑いがある場合に口座を閉鎖し初期預金を返還する権利を留保する旨の記載 |
| Land Prime | 禁止手法 | 顧客同意書は、レイテンシー・アービトラージに依拠した取引や、窓開けを異常に利用した取引を裁量で取り消せるとしています。決済システムの脆弱性を突いて得た利益(チャージバックなど)は取消しまたは同額の請求。さらに「wilful one direction trading」から得た利益を裁量で差し引くことがあり、その解釈権は当社が専有すると規定しています。異議申立ての手続を定めた条項は見当たりません。 |
| iFOREX | 禁止手法 | あり。取引条件「許可されない取引行為」および顧客契約 第7.1.14項・第7.1.15項に該当する兆候または疑いがある場合、関連口座で行われたすべての取引を無効にしてキャンセル(利益と損失を含む)、ボーナスの削除、口座のブロック。ボーナス規約の一般規約にも同趣旨の規定 |
| WeTrade | 禁止手法 | 第3.13項により、アービトラージまたはスキャルピングに該当するとWeTradeが判断した取引は、絶対的な裁量で決済・差替え・反転できると規定されています。利益の取消しについて、対象範囲・金額・異議申立ての手続を定めた条項は見当たりません。 |
| EMCTrading | 記載なし | 記載が見当たらない |
| MYFX Markets | 未確認 | —(この記事の執筆時点では確認できていません) |
「型」はこちらで分類したものです。規約にこの区分があるわけではありません。表の内容は、各社の規約から取った記録をそのまま載せています。
条項の型は、3つに分かれます
1つめ:明白な誤りを直す型(4社)
AXIORY、XMTrading、BigBoss、TitanFXがこの型です。誤ったレートで約定した取引を、なかったことにできるという書き方をします。XMTradingは第20条の見出しがそのまま「Manifest errors」です。BigBossは第5.9条で誤ったクォート時の修正・調整を定めています。
これは、どちらかといえば理解しやすい条項です。システムが壊れた値を出したときに、それを直せないほうが困ります。ただし「明白な誤り」に当たるかどうかを判定するのは、ブローカー側です。
2つめ:禁止手法に当たったときの型(9社)
いちばん多い型です。FXGT、HFM、iFOREX、Milton Markets、WeTrade、Vantage Trading、Land Prime、Exness、EBC Financial Group。スキャルピング、両建て、アービトラージ、レイテンシーの悪用といった手法に該当すると判断されたときに、そこから出た利益を消せるという組み立てです。
HFMの第24.4条(h)は踏み込んでいて、口座を閉じ、禁止された取引手法から生じた利益を没収し、当初の入金額だけを返すと書いてあります。出金済みの場合の扱いにも触れています。
この型を読むときは、どの手法が禁止されているかとセットで見る必要があります。禁止の定義が広い社ほど、この条項の射程も広くなるからです。アービトラージの定義にスキャルピングや両建てを含めている社があるのは、そのためです。
3つめ:会社の裁量とだけ書く型(4社)
IS6FX、Tradeview、ThreeTrader、Axi。該当するかどうかの判断が会社側にあることを、条文で明示しています。
IS6FXの第12条は、そこをいちばんはっきり書いています。禁止行為に該当するかどうかの判断は当社が行い、その内容と根拠を利用者に説明することを要しない。説明を求める権利のほうを、あらかじめ外してある書き方です。
「当社が支払う側の取引」だけを無効にできる、と書く2社
TitanFXとThreeTraderの条文には、ほかの18社にない一文が入っています。
当社がお客様に対して金銭を支払う義務が生じる取引である場合、当社はその取引を契約の開始時点から無効とみなす
出典:TitanFX 利用規約 第5.26条
ThreeTraderも同じ形です。第9.7条(b)は、同社が支払う側となる取引を、最初から無かったものとして扱えると定めています(顧客が30日以内に決定的な証拠を提出した場合を除く、という留保が付いています)。
逆側は書かれていません。つまり、同じ原因で発生した取引でも、顧客が損をしたほうは無効にならない。条文をそのまま読むと、そう読めます。
誤解のないように書いておきます。これは出金拒否があったという話ではありません。このサイトは被害の有無を確認していません。確かめたのは、契約書にどう書いてあるかだけです。ThreeTraderが30日以内の異議申立てを条文に残しているのは、むしろ手続を書いている側です。
取り消せる範囲と上限を書いている社は、ありませんでした
17社の条項を並べて、共通して欠けているものがあります。何をどこまで取り消せるのか、その範囲と上限です。
- 対象になるのは該当した取引だけか、口座全体の損益か
- すでに出金した分まで遡るのか
- 顧客が異議を申し立てる手続と期限はあるか
Vantage TradingとWeTradeについては、取消しの対象範囲・金額の上限・異議申立ての手続を定めた条項が見当たらない、と記録に残しています。期限つきの異議申立てを条文に書いていたのは、執筆時点で調べた20社ではThreeTraderの30日だけでした。
HFMは逆に、出金済みの場合にどうなるかまで書いています。書いてあること自体は利用者に不利な内容ですが、読めば分かる状態にはなっています。このサイトが見ているのは、そこです。
確認できなかった2社
MYFX MarketsとXS.comについては、この項目を記録できていません。該当する条項がないという意味ではなく、私がまだ確かめていない、という意味です。確かめたら、この表を直して更新履歴に残します。
EMCTradingは「記載が見当たらない」と記録しています。こちらは規約を読んだうえで、それらしい条項が見つからなかった、という意味です。
まとめ
執筆時点で調べた20社のうち17社が、約定済みの利益を取り消せる条項を持っています。型は3つに分かれ、いちばん多いのは禁止手法に当たったときの型でした。
口座を開く前に見ておくなら、順番はこうだと思います。まずどの手法が禁止されているかを読み、次にこの条項で、該当したときに何が起きるかを読む。2つはつながっています。
この記事は、各社の利用規約・顧客契約から取った記録をもとにしています。調査基準日は記事ごとに違うため、各社の条項の取得時点は全社比較からそれぞれの記事で確認してください。規約は3か月に一度読み直し、変更があれば直して更新履歴に残します。