このページの結論

アービトラージは、禁止されているかどうかより、何をアービトラージと呼んでいるかが問題でした。あるブローカーはスキャルピングをアービトラージの別名と定義し、別のブローカーは買いと売りを同時に出す取引——つまり両建て——を定義に含めています。「あらゆる種類のアービトラージ戦略」とだけ書いている社もありました。

アービトラージ(裁定取引)を禁止と書いている海外FXブローカーは多数あります。ただ、その語が何を指すかは規約ごとに違いました。

20社の利用規約・顧客契約を読み、アービトラージの定義と禁止条項を条番号つきで並べました。定義が広いほど、自分の取引が該当するかどうかを事前に判断しにくくなります。そこを見るためのページです。

定義が3つの方向に広がっています

読み比べると、広げ方に3つの型がありました。

広げ方 何が起きるか
手法の名前を取り込む Tradeview——スキャルピングをアービトラージの別名と定義 短期売買そのものが対象になりうる
注文の出し方を取り込む WeTrade——買いと売りの同時発注を定義に含める 両建てが対象になりうる
目的で広く括る Milton Markets——「あらゆる種類のアービトラージ戦略」 範囲が条文から読み取れない

Tradeview——スキャルピングを別名として定義

顧客契約 第16条は、アービトラージをこう定義します。「インターネットの遅延や価格の誤りを利用する行為(レイテンシ・アービトラージ、別名「スキャルピング」)」。

遅延を突く行為と、短時間で売買を繰り返す手法は、本来は別のことです。この条項は、それを同じ語でまとめています。スキャルピングをするつもりの人が第16条を読んだとき、自分の話だと気づけるかどうかは、読み方によります。

WeTrade——同時発注を定義に含める

アービトラージの定義はこうです。「インターネットのレイテンシ、技術的問題による遅延価格、その他の状況を利用して利益を得る取引手法、または買い注文と売り注文を同時もしくはほぼ同時に出す取引」。

後半は両建てそのものです。同社は公開ページで両建てを「可」としています。可と書いてある手法が、別の条項では禁止対象の定義に入っている。同じ文書の中で完結していません。

さらに同じ項の後段は「スキャルピングは当社の規約の重大な違反とみなされ、WeTrade は絶対的な裁量で取引の決済・差替え・反転、または口座の即時閉鎖を行うことができる」と定めます。保有時間や約定回数の基準は書かれていません。

Milton Markets——「あらゆる種類の」

第24.33条(b)は、「クライアントの利益のために取引システムを利用するあらゆる種類のアービトラージ戦略」について、疑いがある場合に口座を閉鎖し初期預金を返還する権利を留保します。

利益のためにシステムを使う、という書き方がどこまでを指すのかは、私には読み取れませんでした。返還されるのは初期預金です。それ以降の損益がどう扱われるかは、この条項からは分かりません。

具体的に何を挙げているか

列挙の中身を並べます。同じ「アービトラージ禁止」でも、拾っている行為が違います。

ブローカー 条項 列挙されている行為
Land Prime 顧客同意書 相場操縦・価格操縦・インサイダー取引・フロントランニング・チャーニング・非市場取引・リスクフリー取引・latency arbitrage・price arbitrage・bonus arbitrage・swap abuse・negative balance protection abuse
AXIORY 規約 30.6 arbitrage/市場の失敗の利用、技術的エラーや欠陥、churning、不公正な競争行為、high-frequency trading および/または latency arbitrage
Vantage Trading 顧客契約 commission churning、sniping、Quoting Error への便乗、原資産の価格を動かすこと、スキャルピング、オフマーケット価格のアービトラージ、価格の仕組みを操作・不当利用する電子機器・ソフトウェア・アルゴリズム、他の顧客とのIP共有、過度なレバレッジ
HFM 24.1条 アービトラージとレイテンシーの利用。「Any transactions that exploit price latency or Arbitrage opportunities may be cancelled without prior notice」
ThreeTrader 第9.7条(b) マネーロンダリング・アービトラージ・オフマーケット価格での取引・価格差や価格エラーで利益を得る取引
Exness 顧客契約書 正当な意図なく、または過度に、価格レイテンシーや裁定機会・不正確な価格付けに依拠して利益を得る行為
XS.com 顧客契約 価格遅延アービトラージ(EA・プラグインの使用を含む
XMTrading 9.1.34条 sniping・scalping・arbitrage・cash back arbitrage・interest arbitrage・churning(ボーナス・キャンペーン濫用の文脈
FXGT 第2.6条 ‘arbitrage’・’sniping’・’scalping’ による濫用(自動売買システムの使用とセット

Exness の書き方は、他社と違います。「正当な意図なく、または過度に」という限定が付いています。裁定機会に依拠すること自体ではなく、意図と程度を条件にしている形です。

Axi は語としてのアービトラージではなく、Price Manipulation の定義で括っています。「engaging in practices which deliberately attempt to interfere with our prices, execution process or the Trading Platform, including using any electronic device, software…」——意図的に価格や執行プロセスに干渉しようとする行為、という定め方です。

EBC Financial Group は、確認した範囲でスキャルピングやアービトラージ自体を禁止する条項が見当たりませんでした。「記載が見当たらない」は「許可されている」という意味ではありません。禁止する条項が見つからなかった、という意味です。

レイテンシに触れているのは11社

価格の遅延や執行の遅れを利用する行為に触れているのは、AXIORYBigBossAxiHFMExnessTradeviewWeTradeIS6FXLand PrimeXS.comMilton Markets の11社でした。

Land Prime は、ツールの側から書いています。価格遅延・執行遅延・プラットフォームやサーバーのエラー・気配のズレ・技術的な弱点を突くために設計されたEA(自動売買プログラム)・ロボット・自動売買システム・スクリプト・プラグイン・レイテンシーツールの使用、という列挙です。行為ではなく、そのために作られた道具を禁じています。

XS.com も「EA・プラグインの使用を含む」と明記しています。EAが動くことと、そのEAの設計目的が許されることは別だ、という書き方です。

該当したとき、利益はどうなるのか

調べた20社のうち18社が、取引の無効化や利益の取消を行える条項を持っています。アービトラージの条項は、たいていこの条項とセットになっています。

  • HFM——24.1条が「価格レイテンシーやアービトラージの機会を利用した取引は、事前の通知なく取り消されることがある」と直接書いています。24.4条(h)は口座を閉鎖し、禁止された取引手法から生じた利益を没収し、当初の入金額を返還する
  • Milton Markets——第24.33条(b)は疑いがある場合に口座閉鎖と初期預金返還
  • Land Prime——レイテンシー・アービトラージに依拠した取引や、窓開けを異常に利用した取引を裁量で取り消せるとします。決済システムの脆弱性を突いて得た利益も取消しの対象です
  • Exness——顧客契約書 11.1(P)は、アルゴリズムによるレイテンシーの悪用や自動化されたシステム過負荷によって得たと同社が合理的に判断した利益を、調整・取消・無効にできるとします
  • Tradeview——第15条・第16条に該当すると単独の裁量で判断した場合、口座の凍結・閉鎖、取引の無効化、利益の留保および回収

「合理的に判断した」(Exness)と「単独の裁量で」(Tradeview)と「疑いがある場合」(Milton Markets)は、同じではありません。どの程度の根拠が要るのかが、条文の言葉で変わります。

確かめる順番

  1. アービトラージの定義条項を先に開く。禁止条項より定義条項です。何をそう呼んでいるかが分からないと、禁止されているかも分かりません
  2. 自分の手法の名前が定義に入っていないか見る。スキャルピング、両建て、EAの使用が定義に入っている例があります
  3. 限定語を探す。「正当な意図なく」「過度に」「意図的に」といった限定があるかどうかで、範囲が大きく変わります
  4. 無効化・利益取消の条項を開く。「疑い」で足りるのか、「合理的な判断」が要るのか、反証の機会があるのかを見ます

この手順を5か所に整理したものが海外FXの口座を開く前に、自分で規約を確かめる方法にあります。

この比較で分かること、分からないこと

分かるのは、規約に何が書いてあるかだけです。条項が実際にどう運用されているか、どの程度の取引で発動するかは分かりません。

アービトラージの禁止条項があること自体は、おかしなことではありません。価格の誤りや配信の遅れを組織的に突く行為は、ブローカーにとって一方的な損失になります。備えとして置かれているのが本来の姿です。

それでも定義を並べる意味はあると考えています。定義が広い規約ほど、自分の取引が該当するかどうかを事前に判断しにくくなるからです。「あらゆる種類の」と書かれた条項を読んだとき、そこに自分が入るかどうかは、読んだ側には決められません。

両建ての条項は両建ての扱い、スキャルピングの条項はスキャルピングの扱い、3論点の一覧は禁止取引のまとめにあります。

このページの内容は、各ブローカーの利用規約・顧客契約から取ったものです。調査基準日は各ブローカーの記事に記載しています。規約は予告なく改定されます。3か月に一度読み直し、変更があれば各記事の更新履歴に記録しています。確認できなかった項目は、推測で埋めずに「記載が見当たらない」と書いています。

ご利用にあたって

外国為替証拠金取引は、為替相場の変動により損失が生じるおそれがあります。レバレッジをかけた取引では、預けた証拠金を超える損失が発生する可能性もあります。本記事は調査結果と事実の記録であり、特定のブローカーでの口座開設や取引を推奨するものではありません。最終的な判断はご自身の責任でお願いします。

本記事に記載した内容は調査基準日時点で確認できたものです。取引条件や規約は予告なく変更される場合があるため、実際のご利用前に必ず公式サイトと利用規約の原文をご確認ください。