「顧客資金は分別管理しています」。公式サイトのどこかに、たいてい書いてあります。ただ、規約の側で同じことを探すと、書き方は会社ごとにまるで違いました。「分別」と書く社、「信託」と書く社、「所有権は当社に移る」と書く社があります。

きっかけはIronFXの取引規約 第17.1条でした。預けた資金の所有権が会社に移り、顧客資金として扱われず、分別もされない、と書いてあります。これは一社だけの話なのか。執筆時点で調べた20社の規約アーカイブを、同じ言葉で検索し直しました。

読み終えてわかったのは、「分別管理」という言葉だけでは、資金がどう扱われるかは決まらないということです。分別と書いた同じ条項の中で、「他の顧客と混ぜる」「会社が引き出せば会社のもの」「会社の取引の証拠金に使う」と続く社が少なくありません。

結論:20社の規約はこう分かれました

規約の書き方 社数 ブローカー
所有権が会社に移ると明記 1社 Axi
信託で保有と明記(うち3社は「引き出した資金は会社のもの」「会社が運用できる」と続く) 4社 TitanFX、Milton Markets、ThreeTrader、EBC(リスク開示書)
会社資金と分別すると規約本文で明記 8社 AXIORY、XMTrading、FXGT、HFM、Exness、XS.com、Vantage Trading、iFOREX
用語の定義にだけ「分別」がある 1社 IS6FX
担保・相殺・貸付の条項だけがあり、分別の文言なし 3社 BigBoss、Land Prime、Tradeview
他の顧客と混合し、会社が事業に使えると明記(分別の文言なし) 1社 MYFX Markets
規約に記載が見当たらない 1社 WeTrade
規約が公開されておらず判定できない 1社 EMCTrading

もうひとつ数えました。「他の顧客の資金と混ぜて保管することがある」と規約に書いている社は、20社中14社です。分別を明記した8社のうち7社も、その中に入ります。

そして、公開ページでは「分別管理」を掲げながら、規約本文にその条項が見当たらない社が2社ありました。TradeviewとWeTradeです。後で書きます。

言葉の整理:分別・信託・所有権移転は、それぞれ別のことです

分別管理は、顧客の資金を会社の運営資金と別の口座に置くことです。会社が破綻したとき、その口座の資金が会社の財産と区別されやすくなります。ただし、規約の分別条項の多くは「他の顧客とは混ぜる」と続きます。

信託は、資金を顧客のために預かる法的な形です。「held on trust」「信託口座」と書かれます。ところが、信託と書いた社の規約には「会社が信託口座から引き出した時点で会社のものになる」という続きがあります。信託と書いてあっても、引き出せる範囲が広ければ、残るのはその範囲の外だけです。

所有権移転(TTCA)は、その反対です。預けた時点で資金が会社の財産になり、顧客は「返してもらう権利」だけを持ちます。会社が破綻すれば、その権利は一般の債権と同じ列に並びます。

20社の条項:どこに何が書いてあるか

ブローカー 文書と条項 書いてあること(要約)
Axi 顧客契約(2026年7月7日発効)第21.3条(a) (iii) 他の顧客の資金と混合することがある。(v) 資金の絶対的な所有権を当社に移転する。(vi) 他の顧客の取引分を含む証拠金・決済の義務に使用できる。(viii) 6年間動きがなければ当社が保持できる。(b) 当社の信用リスクは格付機関の評価を受けていない
TitanFX 利用規約 第2.21条・第2.22条 資金は「分別管理された顧客資金口座(『信託口座』)」へ。(a) 他の顧客の資金と分けて管理されない。(b) 当社は所定の場合に引き出せる。(c) 引き出された資金は当社の所有物となる。(d) 他の顧客を代理した取引を含む証拠金等の義務に使用できる。2.22 利息は当社のもの
Milton Markets 利用規約 v6.2 第3.5条 資金は当社の信託口座へ。(a) 他の顧客の資金から分離されない。(c) 引き出された金額は当社に帰属し、もはやお客様の資金ではない。(d) ヘッジングパートナーとの取引を含む証拠金等に使用でき、他の顧客の代わりに行う取引を含む
ThreeTrader お客様規約(2025年7月17日更新)第23.1〜23.3条 分別口座で信託として保有し、当社への貸付ではない。他の顧客と混合され、銀行の破綻について当社は責任を負わない。23.2 当社は顧客資金を投資に回せる。23.3 利息・収益は当社のもの
EBC Financial Group リスク開示書 第5.4条・第5.6条 顧客資金は信託として保有し、当社の銀行口座から常に分別。他の顧客と同一口座で保有することがあり、分別できない場合がある。5.6 第三者の破綻による損失に当社は責任を負わない。利用規約本体には条項が見当たらない
AXIORY 利用規約 第12条 CLIENT MONEY 12.1 指定された分別顧客資金口座に置き、当社の資産から分別。12.2 当社の占有・管理下にあり、相殺権の対象。12.3 他の顧客の資金とオムニバス口座で保有されることがある
XMTrading 利用規約 第66.1条・第66.2条 承認銀行の口座に置き、当社の資金から分別。他の顧客の資金と一般オムニバス口座でプールされることがある。66.2 取引所・清算機関・仲介業者が保有することを認めうる
FXGT 利用規約 Version 40 第15条 15.1 分別口座を設け、法令に従って運用。15.2 資産は当社名義の口座に置かれ、他の顧客と混合(オムニバス)。15.3 金融機関や決済業者の破綻による損失に当社は責任を負わない
HFM 顧客契約書(2026年7月版)第31.1.1条 全顧客資金を「顧客資金口座」と呼ぶ指定オムニバス口座で保有し、運営資金の口座とは完全に別。31.1.2 第三者に保有させることがある
Exness 顧客契約(2026年7月24日版)Part B 第1条 1.3 他の顧客と同一のオムニバス口座で保有することがある。1.4 当社自身の資金とは分別した顧客資金銀行口座に置く。1.7 第三者が破綻した場合、当社は無担保の請求権しか持たないことがある
XS.com クライアントサービス契約 v1.4 第17.3条・第17.7条 17.3 当社自身の口座と分別した「顧客口座」に速やかに置き、自己勘定への流用を防ぐ。17.7 第三者がオムニバス口座で保有すると分離できず、破綻時に特定の金額への請求権を持てない
Vantage Trading 顧客契約(2025年12月版)第2.7条 (a) 分別管理口座で管理。(a)(v) 分別管理は損失リスクからの完全な保護を保証しない。(b) 運営資金と分別するが、他の顧客資金と混合することがある。(c) 利息は当社。(d)(e) ホールセール顧客(特定投資家を除く)の資金は、相手方との取引の証拠金等に使用できる
iFOREX 顧客契約 CA 02092025 第9.1.1条・第9.1.2条 9.1.1 資産は当社名義の銀行口座に保持され、他の顧客の資金と混合される。9.1.2 金融機関がオムニバス口座で保管でき、破綻時に当社は無担保債権以外の権利を持たないことがある。定義欄の「分別口座」は当社資金から分別された口座
IS6FX 利用規約(Comoros) 定義欄 「Bank Account」の定義に「当社自身の資金から分別」とある。顧客資金の扱いを定めた独立の条項は見当たらない
BigBoss 利用規約 第9.1条 CLIENT MONEY 当社が保有する顧客の資金・財産は担保として保持され、一般先取特権と相殺権の対象。当社の裁量で口座間を移動できる。分別・信託の文言は見当たらない
Land Prime 顧客同意書 第14条 COLLATERAL AGREEMENT 担保・一般先取特権・相殺。顧客の資産を、他の顧客の財産と一緒に質入れ・再質入れ・貸付できる。「米国商品取引所法の分別要件に従う」とあるが、契約先はセントビンセント・グレナディーン諸島の法人
Tradeview 顧客契約 第9条 Collateral and lending Agreement 担保・貸付・質入れの条項。分別・信託の文言は見当たらない。一方、英語FAQは「運営資金と別口座」、日本語トップは「会社資本と完全分別管理」と書いている
WeTrade 顧客契約(2026年8月改訂) 分別・信託の条項が見当たらない。第2.1条は「資金を基軸通貨と別の通貨の銀行口座に置くことがある」のみ。会社概要ページは「顧客資金の分別管理を実施」と書いている
MYFX Markets [コモロ名義]Client Agreement(2025年5月)第29.3条 本契約で支払うべき額は「当社に帰属し、当社の事業に使用できる」。ヘッジのために顧客資金を使える。顧客の口座は互いに分離されず、他の顧客の資金と混合される。
EMCTrading 規約文書が公開されていないため判定できない

表の「要約」は私の言葉です。原文は各社の記事と規約アーカイブにあり、条項番号で戻れます。最初に手が止まった条項だけ、原文を残します。

原文(英語)を見る ― 出典:Axi Client Agreement (AxiTrader LLC) Effective 7 July 2026, 21.3(a)

In accepting these terms, you are providing written agreement that: […] (iii) your funds may be co-mingled with the funds of other clients; […] (v) you transfer to us absolute title to the funds; (vi) your funds may be used by us to meet any obligations incurred in connection with margining, guaranteeing, securing, transferring, adjusting or settling dealings in derivatives, including dealings on behalf of other clients;

原文(日本語)を見る ― 出典:TitanFX 利用規約 第2.21条(c)(d)

(c) 信託口座から引き出された資金は、次のようになること。(i) 当社の所有物となる。(ii) お客様の資金ではなくなり、お客様のために保持されることもなくなる。(d) 当社は、信託口座のお客様の資金を当社がデリバティブ取引に関連して証拠金、保証、担保、送金、調整または決済を行う際に生じる義務を履行する目的に使用することができること。この義務には、他の顧客を代理しての取引も含まれること。

読んでいて手が止まった3か所

1つめは、Axiの「絶対的な所有権を当社に移転する」です。IronFXの第17.1条と同じ構造が、執筆時点で調べた20社の中にも1社ありました。Axiの規約はその直後に「当社の信用力は格付機関の評価を受けていない」とも書いていて、読者に負わせるリスクを規約自身が説明しています。隠していないぶん、読めば分かります。

2つめは、「信託」と書きながら「引き出せば会社のもの」と続く型です。TitanFXとMilton Marketsの条文は、細部までほぼ同じ骨格でした。オセアニアの規制で使われる信託口座の書き方を、別の国の法人がそのまま使っている形に見えます。信託という言葉は、当社が引き出した後の資金には及びません。

3つめは、公開ページと規約の向きが逆な2社です。Tradeviewの日本語トップは「会社資本と完全分別管理」、WeTradeの会社概要は「顧客資金の分別管理を実施」と書いています。ところが、どちらも顧客契約に分別の条項が見当たりません。Tradeviewの契約にあるのは、顧客の資産を質入れ・貸付できるという第9条です。約束が規約の外にしかない状態です。

ここから何が言えるか

先に、言えないことを書きます。この表は、会社が破綻したときに資金が戻るかどうかを示すものではありません。戻るかどうかは、その国の破産法と、実際の口座の状態で決まります。規約は「会社が何をしていいと顧客に同意させているか」の記録です。

そのうえで言えることは3つです。

  • 「分別管理」の一言で安心材料にしない。同じ条項の続きに「他の顧客と混ぜる」「会社が使える」があるかを読む
  • 信託と書いてあれば、当社が引き出せる範囲を読む。範囲が広いほど、信託として残る部分は狭い
  • 所有権が移る型は、破綻時に一般債権者になる型です。補償基金の対象が20社中ゼロであることと合わせて読むと、この差は大きい

執筆時点で調べた20社では、ライセンスを持つ法人と日本居住者の契約先が別であることが多く、規約に書かれた資金の扱いが、そのまま日本の口座に当てはまります。公開ページの説明がどの法人の話なのかも、あわせて確かめてください。

同じことを自分で確かめるには

  • 顧客契約(Client Agreement/利用規約)で Client Money/Client Funds/顧客資金 の見出しを探す。見出しがなければ Collateral/担保 の条項を探す
  • その条項の中で、segregated(分別)/trust(信託)/title(所有権)/omnibus・co-mingled(混合) の4語を順に探す
  • 「当社が使用できる」「当社に帰属する」という続きがあるかを見る。あれば、その範囲を控える
  • 公開ページの「分別管理」が、規約のどの条項に対応するかを探す。見つからなければ、食い違いとして記録する

信託・分別・補償基金の区別は規約用語集に、出金が止まる条項は出金が止まる条項にまとめてあります。

このページについて

ここに書いたのは、2026年9月20日時点で規約アーカイブに保存してある各社の文書を、同じ言葉で検索して読んだ結果です。各社の記事に書いた調査基準日の版で読んでいます。その後の改定は、規約の変更監視で差分が出たときに読み直します。

確認できなかったこと。EMCTradingは規約が公開されていません。EBCは利用規約本体に条項がなく、リスク開示書だけに記述があります。IS6FXは定義欄にしか言葉がありません。「見当たらない」は、私が探して見つけられなかったという意味で、存在しないという証明ではありません。規約は3か月に一度読み直し、変更があれば直して更新履歴に残します。

資金の扱いは20社すべてに条項があります。条項の有無ではなく記載の整合性で絞るなら、20社の比較表4条件を満たした2社にまとめてあります。合格は「おすすめ」という意味ではありません。その理由も、そのページに書いています。