海外FXの比較記事には、たいてい「NDD方式だから、ブローカーと利用者の利益は相反しません」と書いてあります。では規約はどう書いているのか。執筆時点で調べた20社の顧客契約と執行方針を、同じ言葉で検索しました。
出てきたのは、逆のことでした。「当社はお客様の取引の相手方です」と規約に明記している社が、20社中14社。さらに1社は、「お客様の注文と反対のポジションを取ることができる」と条文に書いています。
この条項は、顧客資金の扱いと並んで、口座を開く前にいちばん先に読んだほうがいいところだと思います。資金を誰が持つのかと、負けたとき誰が得をするのか。その2つは、規約の別々の場所に書かれています。
結論:20社の規約はこう分かれました
| 規約の書き方 | 社数 | ブローカー |
|---|---|---|
| 当社が取引の相手方(principal)だと明記 | 14社 | Axi、TitanFX、ThreeTrader、Milton Markets、MYFX Markets、EBC、HFM、FXGT、iFOREX、Land Prime、WeTrade、Tradeview、XS.com、BigBoss |
| さらに、反対ポジションを取る権利まで明記 | 1社 | BigBoss(第14.1条。上の14社にも含む) |
| 利益相反が起こりうる場面を列挙 | 2社 | XMTrading、IS6FX |
| 利益相反を定義しているが、当社の立場は書かれていない | 1社 | AXIORY |
| アーカイブの範囲では条項が見当たらない | 2社 | Vantage Trading、EMCTrading(規約非公開) |
| (参考)IronFX | — | 日本語サイトの契約先 Notesco (BVI) Limited。記録ページ |
執筆時点で調べた20社の7割が、自分が取引の相手方であることを規約で認めています。そのうちBigBossだけが、反対ポジションを取る権利まで条文に書いています。
「取引の相手方」とは、何を意味するのか
取引所を通す株式の売買なら、買い手と売り手は別の投資家です。ブローカーは注文を取り次ぐだけで、値動きで損得しません。
店頭(OTC)のCFDは違います。買い注文の反対側に立つのはブローカー自身です。iFOREXのリスク警告は、そこをいちばんはっきり書いています。「すべての取引は、当社が本人およびお客様の取引相手として直接行われます。したがって、当社のお客様に対する義務を保証するクリアリングハウスまたはカウンターパーティは存在しません」。
この形そのものは、海外FXでは普通です。問題は、その事実が公開ページでは「NDD」「STP」という言葉に置き換えられ、規約でしか確認できないことだと思っています。
20社の条項:どこに何が書いてあるか
| ブローカー | 文書と条項 | 書いてあること |
|---|---|---|
| Axi | 顧客契約(2026年7月7日発効)第7.1条(c) | 「acting as principal:お客様との取引において、当社はお客様のすべてのポジションまたは取引の相手方(principal counterparty)として行動します」。同じ第7.1条(b)には、紹介業者への報酬のために通常より広いスプレッドを支払う場合があるとも書かれている |
| TitanFX | 利用規約 第4.2条・第4.3条 | 「当社は、お客様との取引においてお客様の代理人または代表者としてではなく、取引主体として行動するものとします。したがって、すべてのお取引の相手方は当社となります。」 |
| ThreeTrader | お客様規約(2025年7月17日更新)第2.1条 Principal | 「we will act as principal and not as agent on your behalf. Accordingly, we will be the counterparty to all of your trades.」 |
| Milton Markets | 利用規約 v6.2 第2.3条 | 「当社は各契約を本人として締結します。お客様は各契約を本人として締結します(当社が書面で別途同意しない限り)」 |
| MYFX Markets | [コモロ名義]Client Agreement 第2.1条 PRINCIPAL | 「We act as principal in all Our dealings with You. Accordingly, We will be the counterparty to all of Your trades.」 |
| EBC Financial Group | 注文執行方針 第4項 EXECUTION VENUE | 「We act as a principal and not as an agent on the Client’s behalf」。執行会場(execution venue)の章に置かれている |
| HFM | Terms of Business 第6条 | 「外国為替市場、店頭FXオプション、CFD契約を含む特定の市場において、当社はマーケットメイカーとして行動することがある」と明記 |
| FXGT | 利用規約 Version 40 第29.15条 | CFDの定義そのものが「顧客と当社のマーケットメイカーとの間の、原資産の価値の差額についての契約」 |
| iFOREX | リスク警告「相対取引、カウンターパーティリスク、利益相反」 | 「すべての取引は、当社が本人およびお客様の取引相手として直接行われます」。続けて価格・スプレッド・証拠金の決定と注文の受諾拒否が当社の独自の裁量であること、当社が原資産にポジションを持つことがありお客様の利益と相反する可能性があること、それを開示する義務を負わないことまで書かれている |
| Land Prime | 顧客同意書 第3項 AUTHORIZATION TO TRADE | 「Land Prime Ltd. is authorized to act as counterparty」(相手方として行動する権限を与えられる) |
| WeTrade | 顧客契約 | 「As a CFD and spot forex market maker, WeTrade may have access to information…」と、自社をマーケットメイカーと記述 |
| Tradeview | 顧客契約 | 証券取引サービスの提供にあたり「principal または matched principal の立場で行動することがある」 |
| XS.com | クライアントサービス契約 v1.4 第3.1条 | 「dealing in securities, whether acting as principal or agent」。principal か agent かは条文では確定していない |
| BigBoss | 利用規約 第5.1条・第14.1条 | 第5.1条「Bigboss will act as the Client’s principal in effecting transactions」。さらに第14.1条で (a) 顧客の口座と同種の取引でも自己勘定で売買できる、(b) 自己勘定か他の顧客のためかを問わず、お客様の注文と反対のポジションを取ることができる |
| XMTrading | 利用規約 第70.1条 Conflicts of interest | 「当社、当社の関係者、当社と関係のある者または会社がお客様と取引を行うとき、当該取引に重大な利害関係・関係・取り決めを有する場合がある」。そうした利益相反が生じた場合は解決に努める、と続く |
| IS6FX | 利用規約(Comoros) 利益相反の章 | 当社またはグループ会社が「注文を執行するために顧客自身と契約を締結する」「原資産の発行者である」「自己または他の顧客のために買主・売主として行動する」可能性を列挙 |
| AXIORY | 利用規約 | 「利益相反」の定義はあるが、当社が取引の相手方かどうかを述べた条項は見当たらない |
| Vantage Trading | 顧客契約(2025年12月版) | アーカイブの範囲では、当社の立場を述べた条項が見当たらない |
| EMCTrading | — | 規約文書が公開されていないため判定できない |
| Exness | 顧客契約 第6.1条 | ODP(店頭デリバティブ提供者)としての取引について「principal-to-principal basis」と定める。一般の顧客取引についての明記は、この条項とは別 |
原文(日本語)を見る ― 出典:iFOREX リスク警告(2026-09-09 取得)
CFDは相対取引(OTC)商品であり、規制された取引所では取引されません。すべての取引は、当社が本人およびお客様の取引相手として直接行われます。したがって、当社のお客様に対する義務を保証するクリアリングハウスまたはカウンターパーティは存在しません。[…]当社およびその関連会社は、原資産または関連市場に利害関係を有し、取引ポジションを保有し、またはお客様に提供できない情報にアクセスする場合があります。こうした利害関係またはポジションは、お客様の利益と異なる、または相反する可能性があります。当社は、こうした情報を開示する義務、当社が保有する市場情報またはその他の情報を提供する義務、または自社の取引活動を変更、制限、または控える義務を負いません。
原文(英語)を見る ― 出典:BigBoss 利用規約 第14.1条
Subject to applicable laws, rules, and regulations, Bigboss shall be entitled to: (a) act in any capacity for any other person or buy, sell, hold or deal in any foreign currencies for Bigboss own Account even if similar transactions may be in the Client’s Account or covered by the Instruction in respect of the Client’s Account; and (b) take the opposite position to the Client’s order whether it is on Bigboss own Account or is on behalf of other Client(s) of Bigboss
読んでいて手が止まった3か所
1つめは、BigBossの第14.1条(b)です。「お客様の注文と反対のポジションを取ることができる」と、条文がそのまま書いています。他社が「principal として行動する」と抽象的に書く内容を、動作として書いた社はここだけでした。
2つめは、iFOREXの「開示する義務を負わない」です。当社が原資産にポジションを持ち、顧客に出せない情報にアクセスすることがあり、それが顧客の利益と相反しうる。そこまで書いたうえで、開示義務も、取引活動を控える義務も負わないと続けます。読者にとって不利な情報を、これだけ正確に書いている規約は珍しい。
3つめは、Axiの第7.1条です。(b)で紹介業者への報酬に触れ、その報酬のために通常より広いスプレッドを顧客が払う場合があると書いたうえで、(c)で「当社が取引の相手方」と続きます。この2つが同じ条項に並んでいるのは、たまたまではないと思います。
「NDD」「STP」という言葉について
公開ページでよく見る言い方と、規約の記述は、同じことを別の角度から言っている場合があります。注文を外部の流動性提供者に流していても、顧客との契約上の相手方はブローカー自身、という形が成り立つからです。HFMの規約には、注文を第三者の流動性提供者に送ることがあっても当社が唯一の取引相手であり続ける、という趣旨の記述があります。
なので、「NDDだから利益相反がない」という説明は、規約の記述とは別のことを言っています。どちらが正しいかではなく、確かめられるのは規約のほうだ、ということです。
ここから何が言えるか
先に、言えないことを書きます。相手方であること自体は、不正でも違法でもありません。店頭デリバティブの標準的な形です。この表は「このブローカーは顧客を負かそうとしている」という主張ではありません。
言えるのは3つです。
- 価格を決めるのも、注文を受けるかどうかを決めるのも、取引の相手方です。iFOREXの条文がそこを明示しています。禁止される取引手法の判定も、同じ相手が行います
- ゼロカットや約定拒否の条項と、この条項はセットで読む。誰が判断するのかが同じだからです
- 「利益相反がない」と書いてある記事を見たら、その会社の規約で principal・counterparty・market maker を検索してみてください。3語のどれも出てこなければ、そのときは私の表を疑ってください
同じことを自分で確かめるには
- 顧客契約(Client Agreement/利用規約)で principal を検索する。ただし「you act as principal」「the Client is acting as a principal」は顧客側の話なので、主語を必ず見る
- 次に counterparty。「counterparty to all of your trades」が出れば確定
- market maker と conflict of interest の章も見る。注文執行方針(Order Execution Policy)とリスク開示書に分かれている社がある
- 日本語規約なら「取引主体」「本人として」「相手方」「マーケットメイカー」
用語の区別は規約用語集に、資金そのものの扱いは顧客資金の扱いにまとめてあります。
このページについて
2026年9月20日時点で規約アーカイブに保存してある205文書を、同じ言葉で全文検索して読みました。各社の記事に書いた調査基準日の版で読んでいます。
確認できなかったこと。EMCTradingは規約が非公開です。AXIORYとVantage Tradingは、アーカイブの範囲では当社の立場を述べた条項が見当たりませんでした。Exnessの第6.1条はODP(店頭デリバティブ提供者)取引についての条文で、一般の顧客取引を直接定めたものではないため、13社には数えていません。「見当たらない」は、私が探して見つけられなかったという意味で、存在しないという証明ではありません。規約は3か月に一度読み直し、変更があれば直して更新履歴に残します。
取引の相手方であること自体は、店頭デリバティブでは普通です。そこではなく記載の整合性で絞るなら、20社の比較表と4条件を満たした2社にまとめてあります。合格は「おすすめ」という意味ではありません。その理由も、そのページに書いています。