「IronFXは出金できないのか」。この会社の名前は、いまも「出金」「詐欺」という言葉と一緒に検索されています。私はIronFXに口座を持っていて、いまも使っています。それでも、この記事に自分の口座の話は書きません。1人の体験は、公表資料の代わりにならないからです。

できるのは、公的な機関が公表した文書と、いまの規約を並べることです。金融庁の一覧、キプロス証券取引委員会(CySEC)の決定文2本、ハンガリー中央銀行の公表、そして2026年8月31日付の取引規約。すべて原文で読みました。

読み終えて残ったのは、10年前の話より、いまの規約の第17.1条でした。最後にそこまで書きます。

結論:確認できたことと、確認できなかったこと

先に線を引きます。

原文で確認したこと。金融庁の無登録業者一覧に、平成24年(2012年)6月と令和2年(2020年)3月の2回、別の法人名で載っていること。CySECが2015年11月に33万5,000ユーロの和解を、2017年12月に2,000ユーロの制裁金を公表していること。ハンガリー中央銀行が2016年2月に、「支払いをしない」という苦情が約120件届いたと公表していること。

確認できなかったこと。その苦情が最終的にどう処理されたか。CySECが調査を公表した2015年8月6日の告知そのもの。2017年の制裁金の理由(ギリシャ語版にしかありません)。そして、金融庁が2020年に載せた「Notesco Limited」と、いま日本語サイトを運営する「Notesco (BVI) Limited」が同じ法人かどうか。名前が違うので、同一とは書きません。

時系列:公表資料で追えるところ

時期 何があったか 私の確認
2010年11月16日 CySECのライセンス 125/10 の付与日。登録簿の現在の名義は Notesco Financial Services Ltd、旧名として IronFX Global Limited・IronFX Limited が併記 CySEC登録簿で確認
2012年6月 金融庁の一覧に「IronFX Limited (ironforex)」として掲載 原文で確認
2015年8月6日 CySECが IronFX Global Ltd の調査を告知 11月の決定文に「8月6日の告知に続き」とある。告知そのものは未読
2015年11月27日 CySECが 335,000ユーロの和解を公表。支払い済み 原文で確認
2016年2月22日 ハンガリー中央銀行が「IronFX Global Ltd が支払いをしない」という苦情を約120件受けたと公表 原文で確認
2017年12月4日 CySECが 2,000ユーロの制裁金を決定(公表は2018年6月27日)。法人名は「Iron FX Global Ltd(現 Notesco Financial Services Ltd)」 原文で確認(理由はギリシャ語版のみ)
2020年3月 金融庁の一覧に「Notesco Limited」として掲載。サービス名は IronFX・FXGiants・FXlift 原文で確認
2026年8月31日 日本語サイトの取引規約が v.2026/003 に。契約先は Notesco (BVI) Limited 原文で確認

被害の有無は、この表のどこにも書いていません。書けるのは、機関が何を公表したかまでです。

金融庁の一覧には、2回載っている

金融庁「無登録で金融商品取引業を行う者の名称等について」を、2026年9月19日にHTML版の全行で確かめました。IronFX に関わる行は2つあります。

1つめは平成24年6月の「IronFX Limited (ironforex)」。内容は「インターネットを通じた、店頭デリバティブ取引。」の一文だけです。

2つめは令和2年3月の「Notesco Limited」。備考に「当該業者が提供するサービス(FX取引等)の名称は『IronFX』、『FXGiants』、『FXlift』である。」と書かれています。ブランドは同じでも、載っている法人名は8年で変わりました。

この一覧は「警告書を出した先」の記録で、取引条件の評価ではありません。掲載=違法性の確定でもありません。読み方は金融庁の警告一覧に載っている海外FX業者に書いたとおりです。

CySECの決定文に書いてあること

2015年11月27日の決定文は1ページです。CySECは2009年法の第37条(4)に基づき、「合理的な疑いがある違反または違反の可能性」について和解できると前置きし、IronFX Global Ltd からの申し出で和解に至ったと書いています。

調べていたのは、2007年投資サービス法の第28条(1)(認可条件の遵守、特に第18条(2)(f)および(j))、第36条(1)(顧客に対する業務行為義務)、第38条(1)(最良執行)です。和解金は 335,000ユーロで、「支払い済み」と明記されています。

ここで注意したいのは言葉です。決定文は一貫して「possible violations(違反の可能性)」と書いていて、違反があったと認定した文書ではありません。和解は、認定ではない。この区別は、他社の記事でも同じように守ります。

原文(英語)を見る ― 出典:CySEC Board Decision, 27 November 2015

Pursuant to the abovementioned article and following a request by the Cyprus Investment Firm ‘IronFX Global Ltd’ (the ‘IronFX’), a settlement has been reached with IronFX for which there was reasonable suspicion of it committing possible violations of the Investment Services and Activities and Regulated Markets Law of 2007 (the ‘Law’) and of the Directives issued pursuant to the Law. […] The settlement reached with IronFX, for the possible violations, is for the amount of €335.000. The Company has paid the amount of €335.000.

2年後の2017年12月4日には、同じ法人に2,000ユーロの制裁金が決まっています。根拠は同法第114条への不遵守。公表文の英語版は「詳細はギリシャ語版を参照」とだけあり、理由は私には読めていません。この決定には司法審査の記録があります。

ハンガリー中央銀行が公表した「約120件」

2016年2月22日、ハンガリー中央銀行(MNB)が英語で公表しました。1月末以降、IronFX Global Ltd が「顧客の求めにもかかわらず支払いをしない」という苦情を約120件受け取った、2月だけでハンガリーからさらに約50件届いた、という内容です。

同時にMNBは、IronFXは越境業者なので監督権限はCySECにあり、MNBにはないと書いています。苦情はまず業者へ、拒まれたらキプロスの金融オンブズマンへ、という手順も示されました。

これは規制当局が数字を出した、数少ない公文書です。ただし、その後この苦情がどう処理されたかを示す公表資料は見つけられませんでした。

いまの契約先と規約:第17.1条

日本語サイト(ironfx.com/ja/)はいまも動いています。フッターには「IronFXは、Notesco (BVI) Limitedの商号です」とあり、英領バージン諸島金融サービス委員会(FSC)の免許番号 SIBA/L/24/1175 が書かれています。サービス提供外の国として挙がるのは米国・キューバ・スーダン・シリア・北朝鮮などで(オーストラリアとインドは「配布を意図しない」と別の書き方)、日本はどちらにもありません。

FSCの登録簿を引くと、「Notesco (BVI) Limited」は現在規制中の事業者として3区分(Dealing as Agent/Dealing as Principal/Arranging Deals in Investments)で出てきます。免許番号そのものは登録簿の表示項目になく、SIBA/L/24/1175 という番号は登録簿側からは照合できていません。

一方、CySECの登録簿では、ライセンス 125/10 の名義が「Notesco Financial Services Ltd」になっていて、旧名として「IronFX Global Limited, IronFX Limited」が併記されています。承認ドメインは ironfx.eu と fxlift.eu。つまり、日本語サイトの契約先はキプロスの法人ではなく、BVIの法人です。

その規約(Terms of Business、2026年8月31日付 v.2026/003)を読んでいて、手が止まった条項があります。

第17.1条。口座に受け入れた資金は「所有権移転型担保(TTCA)」の対象になり、送金した時点で完全な所有権が会社に移る。顧客資金として扱われず、信託で保有されず、会社の自己資金と分別されない。そう書いてあります。

原文(英語)を見る ― 出典:IronFX Terms of Business v.2026/003, 17.1

Any money received by the Company in respect of a Client’s Account with the Company, shall be subject to a TTCA. Upon transfer, full ownership of such money shall pass to the Company, and such money shall not be treated as Client Money, shall not be held on trust, and shall not be subject to segregation from the Company’s own funds.

第17.4条はその続きで、会社はその資金を第三者(取引所・清算機関・流動性提供者など)へ移せるし、「会社の一般的な事業目的」にも使えるとあります。第三者の支払能力について会社は責任を負わない、とも。

出金については第18.14条に「通常、不備のない請求は3営業日以内に処理する」とあり、追加書類が必要な場合は請求を拒む権利が留保されています。第18.12条は入金と同じ方法・同じ名義へ戻す原則。第18.15条は、決済口座側が凍結されれば顧客の資金も凍結され、会社は責任を負わないとしています。

レイテンシアービトラージは第7.22条で明文禁止です。該当すれば約定価格の訂正、取引の取消、無通知の口座解約に加えて、入金額の10%(上限200ドル)の管理手数料を請求できると書かれています。

準拠法と裁判所は第33条で英領バージン諸島。第32条により、日本語訳と英語原文が食い違えば英語が優先します。

確認できなかったこと

  • 2015〜2016年に各国当局へ届いた苦情が、最終的に支払われたのか、どう終わったのか。公表資料が見つかりません。
  • CySECが2015年8月6日に出した調査告知の本文。11月の決定文が参照しているだけです。
  • 2017年の制裁金2,000ユーロの理由。英語版は「ギリシャ語版を参照」とだけ。
  • 金融庁が2020年に載せた「Notesco Limited」が、Notesco (BVI) Limited または Notesco Financial Services Ltd のどちらかと同一の法人かどうか。名前が一致しないので、同一とは書きません。
  • BVI FSC の免許番号 SIBA/L/24/1175。登録簿に名前は出ますが、番号は表示されません。
  • 2015年当時、日本の顧客に何が起きたか。私の手元には一次資料がありません。

ここから、いま動いている20社について言えること

IronFXの話でいちばん重いのは、10年前の和解ではなく、いま同意させられる第17.1条だと私は思います。「資金は会社のものになり、分別されない」と規約に書いてある会社は、出金が止まったときに「預かっている顧客資金」という前提そのものが成り立ちません。

執筆時点で調べた20社では、規約の顧客資金の条項を読んで、「分別管理」と「信託保全」を書き分けて記録してきました。AXIORYの記事で「信託保全は規約のどこにもない」と書いたのも同じ理由です。補償基金の対象かでは、20社中対象になる社はゼロでした。20社の規約を同じ言葉で読み直した結果は顧客資金の扱いにあります。所有権が移ると明記していたのは、20社のうち1社(Axi)でした。

順番はこうです。口座を開く前に、資金の条項を読む。「分別管理」と書いてあるか、「所有権が移る」と書いてあるか。そこを見てから、スプレッドやボーナスを見る。

同じことを自分で確かめるには

「出金拒否」と書かれた話を確かめる手順そのものは、「出金拒否」「詐欺」と書かれた話を、自分で確かめる方法にまとめています。

このページについて

ここに書いたのは、2026年9月19日時点で私が原文にあたれた公表資料と規約だけです。確認できたことと、できなかったことを分けて記録しました。報道や口コミは根拠にしていません。

IronFXを使うべきか、使うべきでないかは書いていません。すでに口座を持っている人に「閉じるべきだ」とも言いません。規約は3か月に一度読み直し、変更があれば直して更新履歴に残します。

いま動いている20社にも、同じ型の条項があります。同じ物差しで並べたものは、20社の比較表4条件を満たした2社にまとめてあります。合格は「おすすめ」という意味ではありません。その理由も、そのページに書いています。