公開ページの「ゼロカットシステム」は、たいてい一言で終わります。ところが規約を開くと、同じ言葉が「責任の上限」という別の書き方で定義されていました。
執筆時点で調べた20社について、利用規約・顧客契約・リスク開示書に書かれたゼロカット(負残高保護)の記載を集めました。引用は当サイトに保存した規約アーカイブの原文からで、条項番号を添えてあります。
20社の記載:一覧
「—」は、執筆時点で条項を特定できていないという意味です。存在しないという意味ではありません。
| ブローカー | 規約での書かれ方 | 根拠(条項・出典) |
|---|---|---|
| AXIORY(アキシオリー) | 規約に定めあり | 利用規約 (g)「AXIORY offers clients a negative balance protection which does not charge loss exceeding the margin」。公開ページにも「ゼロカットとロスカット」の専用ページ |
| XMTrading(エックスエム) | 規約に定義あり・口座ごと | 利用規約 47.9 で Negative Balance Protection を「当該口座の資金を上限とする責任の限度」と定義。本文は「on a per account basis」と明記 |
| FXGT(エフエックスジーティー) | 規約に定めあり・濫用は取引無効 | 「misuse of the Company’s ‘no negative balance’ policy …will void all related Transactions and any resulting profits」。レバレッジを含む取引状況を監視すると規定 |
| ThreeTrader(スリートレーダー) | 公開ページの表示のみ確認 | 公開ページが「ゼロカットシステム」を機能として掲げています。規約側の条項は執筆時点で特定できていません |
| HFM(エイチエフエム) | 規約に定めあり・全口座合算 | 顧客契約 20.4「Negative Balance Protection (“NBP”) limits a Client’s aggregate liability」。全口座を通算した結果が負残高になった場合に「shall take reasonable steps to reset the net balance」 |
| EBC Financial Group(イービーシー) | 負残高のとき追加証拠金を求める記載 | リスク開示書 6.11「The Client acknowledges that additional payment of Margin may be necessary if …6.11.2. when the Account shows a negative balance」 |
| Axi(アクシ) | —(執筆時点では確認できていません) | 法的文書・公開ページのいずれにも該当する記載を見つけられませんでした |
| Tradeview(トレードビュー) | 記載が見つかりません | 規約にも公開ページにも記載なし。顧客契約 第10条の見出しは「Liquidation of accounts / deficit balances」 |
| TitanFX(タイタンFX) | 条件つきで対象外あり | 「2つの口座で両建て取引を行った場合」はゼロカットの対象外と明記(取扱商品ページ) |
| BigBoss(ビッグボス) | —(執筆時点では確認できていません) | 記事執筆時に条項単位では確認できていません |
| Exness(エクスネス) | 規約に定義あり | 利用規約が「Negative Balance」(negative balance policy)を「the precautionary measure the Company takes」=当社がとる予防的措置と定義 |
| XS.com(エックスエス) | 規約に定めあり・濫用条項つき | クライアントサービス契約 5.1「The Client will not be required to cover losses exceeding his invested capital …(subject to the provisions on Negative Balance Protection Abuse in paragraph 31)」 |
| Vantage Trading(ヴァンテージ) | 規約に独立した条あり | 顧客契約 第11条 NEGATIVE BALANCE PROTECTION。禁止行為の (e) に「abusing the Negative Balance Protection Facility」を列挙 |
| IS6FX(アイエスシックスエフエックス) | 負残高が生じうる前提の条項あり | 入金取消などの措置について「these actions may result in a negative Balance in all or any of the Accounts」と規定。公開ページには「追証について」のページ |
| Milton Markets(ミルトンマーケッツ) | 公開ページの表示のみ確認 | 顧客保護制度のページに「ゼロカット保護」。規約側の条項は執筆時点で特定できていません |
| Land Prime(旧LAND-FX) | —(執筆時点では確認できていません) | 記事執筆時に条項単位では確認できていません |
| iFOREX(アイフォレックス) | 他の口座から資金を移して埋める | 顧客契約 9.1(d)「お客様の口座に負の残高がある場合、当社がそれをカバーするために、お客様の他の口座からその口座に資金を転送する」 |
| WeTrade(ウィートレード) | 規約に定めあり・全口座横断 | 3.15「an added negative balance protection mechanism across all(口座を横断する形)」 |
| EMCTrading(イーエムシートレーディング) | —(執筆時点では確認できていません) | 記事執筆時に条項単位では確認できていません |
| MYFX Markets(マイエフエックスマーケッツ) | リスクを「最小化する」との記載 | リスク管理の定めとして「in order to minimize the risk of Negative Balances」。消去するとは書かれていません |
規約では「損失を消す」とは書かれていません
いちばん意外だったのは、条文の書き方でした。XMTrading の利用規約 47.9 は、Negative Balance Protection をこう定義しています。
Means the limit of a client’s aggregate liability, for all CFDs connected to a trading Account … to the funds in that Account
「損失を消す仕組み」ではなく、「顧客の負う責任の上限を、その口座の資金までとする」という書き方です。結果は同じに見えますが、主語が違います。
HFM の顧客契約 20.4 も「limits a Client’s aggregate liability」と同じ構造で、そのうえで「the Company shall take reasonable steps to reset the net balance」と続きます。合理的な措置をとる、であって、必ず戻すとは書いていません。
Exness は定義そのものを「the precautionary measure the Company takes」=当社がとる予防的措置としています。MYFX Markets に至っては、リスク管理の目的を「in order to minimize the risk of Negative Balances」=負残高のリスクを最小化すると書いています。最小化は、ゼロにするとは違います。
口座ごとか、全口座をまとめてか
ここは実務で効きます。同じ人が複数の口座を持っているとき、負残高をどの単位で見るかが社によって違いました。
- 口座ごと|XMTrading は「on a per account basis」と明記。ある口座が負になっても、他の口座の資金は関係しません
- 全口座を通算|HFM は「the Client’s overall position across all accounts」。WeTrade も 3.15 で口座を横断する仕組みだと書いています
- 他の口座から埋める|iFOREX の顧客契約 9.1(d) は「お客様の口座に負の残高がある場合、当社がそれをカバーするために、お客様の他の口座からその口座に資金を転送する」
iFOREX の書き方は、ゼロカットというより資金の振り替えです。損失は消えず、別の口座の残高が減ります。公開ページの一言からは、まず読み取れません。
ゼロカットを狙うと、規約違反になります
読んでいて手が止まったのは、ここでした。複数の社が、ゼロカットの「濫用」を禁止行為として条文に入れています。
XMTrading は「abuse of our ‘no negative balance’」が利用規約の違反にあたると書き、FXGT は「misuse of the Company’s ‘no negative balance’ policy …will void all related Transactions and any resulting profits」――関連する取引と、そこから生じた利益をすべて無効にする、と定めています。
FXGT はさらに、「monitoring trading conditions including but not limited to leverage in order to prevent any abuse」と、レバレッジを含む取引状況を監視すると書いています。
XS.com は 5.1 で「投資した資金を超える損失を負担する必要はない」と明言しながら、そのすぐ後ろに「(subject to the provisions on Negative Balance Protection Abuse in paragraph 31)」と条件を付けています。第31条という独立した濫用条項があるということです。
Vantage も顧客契約 第11条で保護を定めたうえで、禁止行為の (e) に「abusing the Negative Balance Protection Facility」を挙げています。
何をもって濫用とするかは、どの社も具体的に書いていません。ここは禁止される取引手法と同じ構造です。禁止だけが書かれ、基準は示されない。
EBCのリスク開示は「追加証拠金が必要になる場合がある」と書いています
EBC Financial Group のリスク開示書 6.11 は、他社と方向が逆でした。
The Client acknowledges that additional payment of Margin may be necessary if … 6.11.2. when the Account shows a negative balance
口座が負残高を示したとき、追加の証拠金が必要になる場合がある――顧客がそれを了解する、という条文です。
IS6FX も、入金の取り消しなどの措置について「these actions may result in a negative Balance in all or any of the Accounts」と、負残高が生じうる前提で書いています。
どちらも、ゼロカットがあるかないかという話とは別の層にあります。「負残高は起こりうる」と規約が想定していること自体が、公開ページの一言とは温度が違います。
記載が見つからなかった社
Tradeview については、規約にも公開ページにもゼロカット(負残高保護)の記載を見つけられませんでした。そして顧客契約 第10条の見出しは「Liquidation of accounts / deficit balances」です。
deficit balances ――不足残高が生じうる前提で書かれた条項名です。見当たらないことと存在しないことは違いますし、私が読み落としている可能性もあります。ただ、他社が公開ページに明記している項目が見つからない、という事実は記録しておきます。
Axi・BigBoss・Land Prime・EMCTrading の4社は、執筆時点で条項単位まで読めていません。読めたら、このページを直して更新履歴に残します。
このページの使い方
ゼロカットの有無だけを見て終わりにしないこと、が結論です。見るべきは3つあります。
- 単位|口座ごとか、全口座合算か、他の口座から埋められるのか
- 言い切っているか|「消す」か「合理的な措置をとる」か「最小化する」か
- 濫用条項があるか|あるなら、何が濫用かは書かれていないのが普通です
強制決済の水準そのものはロスカット水準のページに、レバレッジが下がる条件はこちらにまとめました。ゼロカットは、その2つが効かなかったときの最後の話です。
ここで確認しているのは記載の整合性であって、実際に負残高を請求された人がいるかどうかではありません。証拠金のハブと調べ方の基準もあわせてご覧ください。
各社の調査基準日は、それぞれのブローカー記事に書いてあります。規約は3か月に一度読み直し、変更があればこのページも直して更新履歴に残します。