このページの結論

ライセンスがあっても、投資家補償基金はどこにもありませんでした。調べた20社の契約先を監督している当局は6つ。そのすべてで、破綻したときに顧客へ補償する公的な基金の規定が見つかりません。レバレッジの上限規制も、6つとも規定なしです。残りの法域には、そもそもFX業者向けのライセンス制度がありません。

「ライセンス取得済み」「〇〇金融庁の規制下」。海外FXブローカーの公開ページには、ほぼ必ずこの表記があります。では、そのライセンスは何を義務づけているのか。最低資本はいくらか、顧客資金の分別管理は義務なのか、番号は当局の登録簿で確認できるのか。

各当局の公式サイトと法令原文だけを読んで、9項目で並べました。ブローカー側の説明は根拠にしていません。当局が自分で公開している規則に書いてあることだけです。確認できなかった項目は「確認できず」と記録しています。

ライセンスは3つの層に分かれます

20社の契約先法人を調べると、監督の形が3つに分かれました。

内容 社数
金融ライセンスあり 証券ディーラー等の免許を持ち、当局の継続監督を受ける 11社
登記のみ 会社としての登記はあるが、金融当局の監督を受けていない 7社
記載なし 契約先法人について監督当局の記載が見つからない 2社

ここでいう「金融ライセンスあり」は、免許の存在を確認できたという意味です。免許の内容が厚いという意味ではありません。何が義務づけられているかは、次の表のとおり当局ごとに大きく違います。

6つの当局が義務づけていること

実際に免許を出している6当局が、規則で何を義務づけているかを並べます。「あり」ではなく「義務」と書いているのは、当局の規則に明文の条項があるという意味です。条文を見つけられなかったものは「確認できず」としています。

横にスクロールできます

当局 顧客資金の分別管理 投資家補償基金 レバレッジ上限 監査済財務諸表の提出 登録簿で番号を照合
ケイマン諸島 CIMA 義務 なし 規定なし 年1回・期末6か月以内+月次 できる
モーリシャス FSC 義務 なし 確認できず 年1回・期末90日以内 登録簿はあるが未検証
ベリーズ FSC 義務 なし 規定なし 年1回・期末120日以内+四半期 ページが開けず確認できず
BVI FSC 義務 なし 規定なし 義務(期限は確認できず) 一覧はあるが番号は非表示
セーシェル FSA 条文本体を確認できず なし 規定なし 年1回・期末4か月以内+四半期 できない
バヌアツ VFSC 規定を確認できず なし 規定なし 年1回・応当日から3か月以内 一覧はあるが会社番号のみ

最低資本・申請料・年間料・処理期間は、下の「取得の難しさ」の表にまとめています。

出典は各当局の法令原文です。ケイマンは Securities Investment Business Act 10条・13条(2)と関連規則、モーリシャスは Securities Act 2005 第54条・第55条(1)と Securities (Licensing) Rules 2007 Rule 14、ベリーズは Securities Industry Regulations 2023 reg.34・41・75〜77、BVIは SIBA 第8条・第18条と Regulatory Code s.181、セーシェルは Securities Act 2007 第75条と Securities Dealer Application Guidelines、バヌアツは Financial Dealers Licensing Act [CAP.70] 第4条・第5条・第10A条。調査基準日は2026年9月14日です。

補償基金は、6当局のどこにもありません

ここがいちばん大きい違いです。6つの当局すべてで、ブローカーが破綻したときに顧客へ支払う公的な補償基金の規定が見つかりませんでした。

調べ方は同じです。根拠法の全文と当局の規則一覧を読み、compensation fund / investor compensation scheme にあたる規定を探しました。結果はこうです。

  • セーシェル——Securities Act 2007 第8条(3)に補償基金の規定はありますが、対象は「証券取引所の申請者」です。証券ディーラーには及びません
  • モーリシャス——Securities Act 2005 第148条は「大臣は規則により補償基金を設けることができる」という授権規定です。2013年に規則案の意見募集が行われましたが、現行の規則一覧に証券系の補償基金はありません
  • ケイマン・ベリーズ・BVI・バヌアツ——根拠法にも規則にも規定が見当たりません

キプロスのICF(投資家補償基金・上限2万ユーロ)や、英国のFSCS(上限8万5千ポンド)にあたる仕組みは、この6法域にはありません。「ライセンスがあるから資金が守られる」とは書けない、というのが読み取れた範囲です。

レバレッジの上限規制も、6当局ともありません

日本の金融庁は個人向けを25倍に、欧州のESMAは主要通貨ペア30倍・ゴールド20倍に制限しています。この6当局には、倍率の上限を定めた規定が見当たりませんでした。ブローカーが掲げる1000倍や2000倍は、当局が認めた数字ではなく、規制がないために各社が自分で決めている数字です。

1つだけ関連する規定があります。セーシェルは2024年の規則改正で、レバレッジ付きCFDと店頭FXを「restricted speculative investment」と定義し、個人顧客の負担をその取引口座の資金までに限定すると定めました(Securities (Conduct of Business) (Amendment) Regulations 2024 reg.35(10))。いわゆるゼロカットにあたる内容が、規則の側に入っています。倍率の上限ではありません。

ライセンス番号を、当局の登録簿で照合できるか

ブローカーの公開ページには番号が載っています。その番号を当局の側から確認できるかを、6当局すべてで試しました。

当局 照合の可否 確認した内容
ケイマン CIMA できる 四半期ごとの免許業者一覧PDFに、ライセンス番号・社名・免許日・業態が載っています
BVI FSC 社名では引ける 登録エンティティ検索はありますが、一覧にSIBA/L形式の番号は表示されません
バヌアツ VFSC 社名では引ける 免許業者一覧はありますが、載っているのは会社番号で、検索機能はありません
モーリシャス FSC 未検証 オンライン登録簿はありますが、JavaScriptで描画されるため私の環境では中身を確認できませんでした
ベリーズ FSC 確認できず 登録簿の各ページが404で開けませんでした
セーシェル FSA できない 資本市場の免許業者一覧にSD番号は載っていません。社名・住所・連絡先のみで、検索機能もありません

セーシェルは、このサイトで調べた20社のうち5社の契約先が使っている当局です。その5社が掲げるSD番号は、当局の登録簿からは確認できません。番号が確認できるのは、FSAが免許取消などの処分を公告したときだけでした。

「ライセンスがない」3つの法域

残りの法域には、そもそもFX業者向けの免許制度がありません。

セントビンセント・グレナディーン諸島——当局が「規制していない」と公表しています

同国の金融サービス庁(FSA)と金融情報機関(FIU)は、連名の注意喚起でこう書いています。

there is no regulation in place for Foreign Exchange (Forex) Trading and Cryptocurrency offerings in St. Vincent and the Grenadines. Furthermore, no Forex Trading or Cryptocurrency licenses are issued in St. Vincent and the Grenadines.

(セントビンセント・グレナディーンにFX取引および暗号資産に関する規制は存在しません。さらに、FX取引および暗号資産のライセンスは同国で発行されていません。)

FSAが列挙する国際金融サービスの免許種別にも、FX・CFD・証券ディーラーは含まれていません。あるのは国際事業会社(IBC)とLLCとしての登記だけです。Axi の利用規約は、この点を自分で明記しています。「The FSA does not regulate, monitor, supervise or licence margin FX and contracts for difference issuers.」

セントルシア——所管法令にFX業者が入っていません

金融サービス規制庁(FSRA)の所管は、保険・国際銀行・国際投資信託・信用組合・マネーサービス業・登録代理人など8本の法律です。FX・CFD・証券ディーラーを対象とする法律が含まれていません。監督対象セクターの一覧にもありません。登記番号(2025-00855のような形式)は会社の登記番号で、金融ライセンスの番号ではありません。

アンジュアン——コモロ中央銀行が「架空の当局」と名指ししています

ここは、調べていて手が止まりました。

コモロ財務・予算・銀行部門省が掲載したコモロ中央銀行のコミュニケ(2025年12月10日付)は、コモロで銀行・金融機関を認可する権限は中央銀行の専属であると述べたうえで、次の5団体を名指ししています。

  • Anjouan Offshore Finance Authority
  • Mwali International Services Authority(MISA)
  • Anjouan Corporates Services
  • Comoros Services LTD
  • Comoros International Banking Authority(CIBA)

コミュニケの表現はこうです。「Ces prétendues autorités ainsi que toutes les entités offshores qu’elles ont agréées octroient des agréments et offrent des produits et services bancaires et financiers dans l’illégalité」——これら自称当局および同当局が認可したすべてのオフショア事業体は、違法に認可を与え、銀行・金融の商品およびサービスを提供している。

さらに、Anjouan Offshore Finance Authority を名乗るウェブサイトが少なくとも4つの別ドメインで併存していることを確認しました。うち1つは、自らの指定登録代理人として Anjouan Corporate Services Ltd を挙げています。中央銀行が架空と名指しした5団体の1つです。

このコミュニケはコモロ中央銀行自身のサイトでは確認できず、財務省サイト経由でのみ取得しました。また、自称当局が根拠法として挙げる「Offshore Finance Authority Act 003 of 2005」等の原文は、コモロ政府の公式サイトでは確認できていません。条文を掲載しているのは自称当局のサイト自身だけです。

取得の難しさは、3つの数字で見ています

「取得難易度」を星の数で表すことはしません。当局が公表している数字を並べるだけにします。それ以上のことは、申請した経験のない私には書けません。

比べられるのは、最低資本・初年度の費用・処理期間の3つです。

当局 最低資本 初年度の当局費用(申請料+年間料) 処理期間
ベリーズ FSC $1,000,000(自己勘定) BZ$33,000 公表なし
ケイマン CIMA CI$100,000 CI$11,000 公表なし
セーシェル FSA US$100,000(FAQは US$50,000) US$9,000 30営業日
バヌアツ VFSC 確認できず(供託金 VT 5,000,000) VT 550,000 3週間
BVI FSC 固定額なし US$5,500 公表なし
モーリシャス FSC MUR 1,000,000 Rs 82,500 公表なし

並べて分かるのは、資本要件と費用が桁で違うことです。ベリーズの自己勘定ディーラーは$1,000,000、モーリシャスはMUR 1,000,000。同じ「100万」でも通貨が違います。

読むときに気をつける点が3つあります。

  1. バヌアツの VT 5,000,000 は資本金ではありません。当局への供託金です(Financial Dealers Licensing Act 第5条(1))。資本金の最低額そのものは、統合版の全文を読んでも見つかりませんでした。資本要件として紹介すると誤りになります
  2. BVIには固定の最低資本額がありません。Regulatory Code s.181(1)(a) は「事業を支えるのに十分な水準を維持すること」という原則を定めるだけで、金額は当局が個別に設定します。「BVIは最低資本◯◯ドル」と書けません
  3. セーシェルは、当局自身のサイトの中で数字が割れています。証券ディーラー申請ガイドラインは US$100,000、同じFSAのFAQページは US$50,000。年間ライセンス料も、ガイドラインは US$2,500、2024年改正の規則別表は US$6,000。後の規則が現行と読むのが自然ですが、ガイドラインが未改訂のまま残っています

20社の契約先は、どこに当たるか

調べた20社の、日本居住者向け契約先法人を監督している当局です。グループの別法人が持つ免許ではなく、規約に書かれた契約相手の免許を見ています。ここがずれているブローカーが複数ありました。

当局・法域 ブローカー
ケイマン CIMA Tradeview(585163)
セーシェル FSA XMTrading(SD010)、FXGT(SD019)、Exness(SD025)、XS.com(SD089)、MYFX Markets(SD202)
バヌアツ VFSC TitanFXThreeTrader(40430)
モーリシャス FSC Land Prime(GB24203734)
ベリーズ FSC AXIORY(4496214)
BVI FSC iFOREX(SIBA/L/13/1060)
セントビンセント(登記のみ) AxiHFMEBC Financial GroupBigBossIS6FX
セントルシア(登記のみ) EMCTradingVantage Trading
セーシェル(別法人の免許) WeTrade(SD196 は契約先とは別法人)
記載が見つからない Milton Markets

グループの免許と、日本居住者の契約相手が一致しないブローカーが目立ちます。WeTradeのSD196、VantageのVFSC 700271、IS6FXのモーリシャスGB21026947は、いずれも規約上の契約相手とは別の法人が持つ免許でした。BigBossが会社概要に掲げるBFX2024045も、規約上の契約主体である Prime Point LLC のものではありません。

MYFX Markets は、コモロのL15835とセーシェルのSD202を並べています。L15835 は、中央銀行が架空と名指しした当局が発行したとされる番号です。自称当局の登録簿では NOT ACTIVE と表示されました。

この比較で分かること、分からないこと

分かるのは、当局が何を義務づけていると公表しているかだけです。

義務が実際に守られているか、当局が検査をしているか、破綻したときに何が起きるか。そこはこの比較では分かりません。規則にあることと、運用されていることは別です。

それでも並べる意味はあると考えています。「ライセンスがある」という言葉が指す中身が、当局によってここまで違うからです。顧客資金の分別管理が明文で義務づけられている当局と、条文が見つからない当局。番号を照合できる当局と、できない当局。補償基金は、どこにもありません。

契約先法人がどこの誰かは、比較ページに20社ぶん並べています。自分で確かめる手順は口座を開く前に、自分で規約を確かめる方法に書きました。

このページの数字は、各当局の公式サイトと法令原文から取ったものです。調査基準日は2026年9月14日。当局の規則は改正されます。確認できなかった項目は、推測で埋めずに「確認できず」と書いています。ブローカー側の説明や比較サイトの記述は、根拠にしていません。

ご利用にあたって

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